人事部・総務部必見!弁護士が教えるマタハラを理解する5つのポイント

社員の妊娠・出産を理由に基本給・ボーナスの減額や降格をすることはマタハラの代表例で違法だ。さすがに、このような扱いをしている企業は少ないかもしれない。しかし、マタハラと認定される行為は意外と広いので、マタハラを理解しておかないとある日突然、労働基準監督署から指導を受ける可能性もある。本日は、マタハラと認定される行為の基本的な考え方をご紹介するので、参考にして欲しい。

平成27年1月23日、厚生労働省はマタハラに関する通達を出した。厚生労働省のウェブサイトを引用する。

男女雇用機会均等法第9条第3項、育児・介護休業法第 10 条等では、妊娠・出産、育児休業等を理由として不利益取扱いを行うことを禁止しています。

一方、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い等の相談件数は引き続き高い水準で推移していることや、平成 26 年 10 月 23 日には男女雇用機会均等法第9条第3項の適用に関して最高裁判所の判決があったことなどを踏まえ、男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法の解釈通達を改正しました。

内容は、上記の最高裁判所の判決に沿って、妊娠・出産、育児休業等を「契機として」なされた不利益取扱いは、原則として法が禁止する妊娠・出産、育児休業等を「理由として」行った不利益取扱いと解されるということを明確化するものです。

厚生労働省のウェブサイト

要するに、妊娠・出産、育児休業等を「契機として」なされた不利益取扱いについて、労働基準監督署は、原則、男女雇用機会均等法第9条第3項、育児・介護休業法第 10 条違反と判断するということだ。尚、注意を要するのは、通達というのはあくまでも厚生労働省=労働基準監督署の基準であって、裁判所が同じ考えを採用していないといことだ。ただし、裁判実務には影響があるだろう。

 

1.マタハラを理解する

 

1-1  マタハラについての法律

まず、マタハラについて定められている法律を確認しておこう。電子政府の窓口には全ての法律が掲載されている。電子政府の窓口は企業の人事部・総務部の担当者は必見のサイトであるから、ブックマークをしておいた方がよいだろう。

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)第9条第3項

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)第10条

 では,妊娠・出産、育児休業等を理由として解雇等の不利益取扱いを行うことを禁止している。

 簡単にいえば、マタハラ=妊娠・出産、育児休業等を理由とする不利益取扱い、ということだ。

1-2マタハラと認定される不利益取扱い

1-3で説明するが,妊娠・出産等の事由があったことを理由に不利益取扱いをした場合にマタハラと認定される。

不利益取扱いの具体例としては以下のようなものがある。

  • 解雇
  • 雇止め
  • 契約更新回数の引き下げ
  • 退職や正社員を非正規社員とするような契約内容変更の強要
  • 降格
  • 減給
  • 賞与等における不利益な算定
  • 不利益な配置変更
  • 不利益な自宅待機命令
  • 昇進・昇格の人事考課で不利益な評価を行う
  • 仕事をさせない、もっぱら雑務をさせるなど就業環境を害する行為をする

 

1-3 妊娠・出産、育児休業等を「理由とする」

妊娠・出産、育児休業等を「理由とする」という言葉は少々解りにくいかもしれない。妊娠・出産、育児休業等の事由と不利益取扱いとの間に因果関係があることということだ。以下の具体例を参考にして欲しい。

 

妊娠中・産後の女性労働者

  • 妊娠、出産をした
  • 妊婦健診などの母性健康管理措置
  • 産前・産後休業をした
  • 軽易な業務への転換した
  • つわり、切迫流産などで仕事ができない、労働能率が低下
  • 時間外労働、休日労働、深夜業をしない

子どもを持つ労働者(男女を問わない)

  • 育児休業をした
  • 短時間勤務をした
  • 子の看護休を取った
  • 時間外労働、深夜業をしない

上記のような妊娠・出産、育児休業等の事由を「契機として」不利益取扱いを行った場合は、原則として「理由として」いると判断されるということだ。

 

1-4 マタハラかどうかはどのように判断するのか?

厚生労働省は、一定の期間内に行われた不利益取扱いは原則としてマタハラになるという基準を示している。

原則として、妊娠・出産・育休等の事由の終了から1年以内に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると判断する。ただし、事由の終了から1年を超えている場合であっても、実施時期が事前に決まっている、又は、ある程度定期的になされる措置(人事異動(不利益な配置変更等)、人事
考課(不利益な評価や降格等)、雇止め(契約更新がされない)など)については、事由の終了後の最初のタイミングまでの間に不利益取扱いがなされた場合は「契機として」いると判断する。

簡単にいえば、会社が従業員について妊娠・出産・育休が終わってから1年以内に不利な人事異動・降格・減給をすると、原則としてマタハラとして認定するということだ。
注意しなければならないのは、不利益取扱いをした時期が1年を超えていても、実施時期が決まっているような場合も原則としてマタハラと認定するということだ。例えば、毎年4月に人事異動があると決まっている会社があったとしよう。前年の12月に妊娠・出産・育休から1年を超えていたとしても、4月の人事異動で不利な人事異動を行えば、マタハラと認定されてしまうということだ。

2 マタハラと認定されない例外は?

2-1 最高裁判所の考え方

平成26年10月23日の最高裁判所判決最高裁判所は、マタハラにならない例外的な場合があることを認めている。

  • 軽易業務への転換や降格により受ける有利・不利な影響、降格により受ける不利な影響の内容や程度、事業主による説明の内容等の経緯や労働者の意向等に照らして、労働者の自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき
    又は
  • 降格することなく軽易業務に転換させることに業務上の必要性から支障がある場合であって、その必要性の内容・程度、降格による有利・不利な影響の内容・程度に照らして均等法の趣旨・目的に実質的に反しないと認められる特段の事情が存在するとき

 

要するに、

1労働者の自由な意思に基づいて同意があったと認められる場合

2業務上の必要性から支障があるため当該不利益取扱いを行わざるを得ない場合において、 その業務上の必要性の内容や程度が、法の規定の趣旨に実質的に反しないものと認められるほどに、当 該不利益取扱いにより受ける影響の内容や程度を上回ると認められる特段の事情が存在する場合

にはマタハラではないということになる。

労働者の同意があればよいのだろうということで、うちでは不利益取扱いについて全員同意して貰っている等と説明をして同意を得ようとすることは良くない判断だ。そのような同意は裁判となった場合,無効と判断される可能性が高い。不利益取扱いの内容を事前に充分に説明した上で、個々の社員から同意を得なければならないだろう。例えば,賃金が昨年度と比べてどの程度低下するのか,復帰後の労働条件,復帰後の職務の内容等を詳細に説明して、納得して貰って同意を得なければならない。

尚,個々の同意を得なくても、上記の2番目の例外の場合には,不利益取扱いをすることができる。しかし,その判断が難しいので,弁護士と充分に相談して実施して欲しい。

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